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<JongWoon>



よく、夢を見る。

夢の中の俺は、いつも誰かを抱きしめて眠っている。

それはとても幸せな夢。

目覚めると、ついそのぬくもりを隣に探す。

それが誰なのかもわからないのに。








お化けっていると思う?

妖精は? モンスターは?

鏡の向こうの世界って、あると思う?

あの山に、魔女っていると思う?



小さい頃の俺は、そんなことばかり言っては親を困らせる子どもだったらしい。



空想の世界は、無限の可能性を秘めている。

あるはずのないものを存在させたり、出来るはずのないものを可能にしたり。

そんなふうに頭の中でお話を広げては、ひとりでワクワクしているような……まぁ、早い話が人より空想癖の強い子どもだった。



夢の中も、そんな空想の世界に支配されていた。

ゲームの主人公みたいに腰に剣を下げて彷徨い歩いたり、攫われたお姫様を救ったり、荒野で敵と戦ったり。

小さい頃の俺の夢の中では、よく俺は腕の立つ剣士になっていた。



でも夢は、朝が来れば終わる。

続きが気になっても、そんな都合よく続きを見られることなんかまずない。

だから、いつも俺はその夢の続きを頭の中で思い描いた。


まさか、将来その空想癖を活かして食っていくことになるなんて、これっぽっちも思わずに。







大学のころ、軽い気持ちで短編ファンタジー小説の賞に応募した。

大賞こそ取れなかったものの入選し、そこから俺の作家人生が始まった。

爆発的なヒットはなくても固定ファンは結構いるらしく、ありがたいことに問題なく作家を続けていけるくらいには売れているらしい。



締め切りに間に合わない、なんてこともあまりない。

頭の中に物語が浮かんでくるスピードの方が、それを文章に起こすスピードよりも上回っていて、今のところ話が浮かばなくて困るという経験は皆無だ。

そういう意味では、俺はあまり手のかからない類の作家なのかもしれない。








その日は新作の原稿を担当が取りに来る予定だった。

早々に担当に渡す分のUSBを用意し、のんびりとキッチンでコーヒーを淹れて待っていた。




「イェソン先生、申し訳ありません。担当の者が体調を崩しまして本日来られませんので、代わりに参りました」

「そう……で、君は?」

「編集部の、キム・リョウクと申します」



そう玄関先で挨拶した彼は、こう言ってはなんだけれど社会人には到底見えなかった。

大学生が背伸びしてスーツを着ているような、そんな感じ。

なのに佇まいはどこか凛としていて、なんというか、きちんと育てられたお嬢様、といった雰囲気だった。

お嬢様、だなんて彼には失礼かもしれないが。



だがそれよりも気になったのは、彼と目があった瞬間の、俺自身の感覚の方だった。

既視感とでもいうのだろうか。


「あの……どこかで会ったこと、ありますか?」


気づけばそんな、ナンパする男の常套句のようなことを口走っていた。

だが、彼はそれにあっさりと答えた。


「はい。一度弊社のパーティーで」





だから、その時すぐにはわからなかったんだ。



これが、運命の出会いだってことに。



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2019.12.22 Sun l 君と紡ぐ未来【完】 l コメント (2) トラックバック (0) l top


<RyeoWook>



よく、夢を見る。

夢の中の僕は、いつも誰かに抱きしめられて眠っている。

それはとても幸せな夢。

目覚めると、ついそのぬくもりを隣に探す。

それが誰なのかもわからないのに。








まただ。

舐めるような視線に鳥肌が立つ。

それでも立場上笑顔を浮かべ、よろしくお願いしますと頭を下げなくてはいけない。




自分が、そういう目で男の人から見られがちなことを、今はもう十分自覚している。


最初は高校に入学してすぐの頃。

通学電車の中で、初めて痴漢にあった。

気のせいだと思ったけれど、1週間で3日も同じ目にあえば電車に乗るのが怖くなった。

同じ高校に通っていた従兄のドンヘヒョンに泣きついて、毎日のお弁当を作るかわりに一緒に登校してもらった。


ドンヘヒョンが高校を卒業するときに、2人で部屋を借りた。

ヒョンの進学先の専門学校は高校を挟んで僕らの家からは反対方向にあって、ちょうどそこと高校の真ん中くらいに借りたマンションからは自転車で通える距離だった。

電車で一緒に登校できなくなることを心配した、ヒョンの優しさだった。

その名残で、出版社に就職した今でも、相変わらずヒョンと2人で暮らしている。


1人になるのは……怖い。


見てくるだけなら、もう何も気づいていないふりでやり過ごすのが一番だと悟っている。

でも、時々そうでない人に出会った時が厄介だ。




「ちょっとくらいならいいじゃないか。付き合ってよ」


会社の主催するパーティーには、取引のある書店の関係者やうちで書いてくれている作家さん、お世話になっているカメラマンなど様々な人が出入りする。

普段はなかなか担当以外の作家さんに会うことはないけれど、こういう場だと避けるわけにもいかない。

まして、相手がうちの出版社が扱う中でも3本の指に入るほどの売れっ子なら尚更だ。


「いえ。仕事がまだまだありますので……」


いい加減にしてほしい。

あまりのしつこさに、愛想笑いの裏で内心キレそうになってた時だった。


彼が、助けてくれたのは。






「ファン先生、でいらっしゃいますよね?」


突然聞こえてきた少しかすれたその声に、胸が疼いたのはどうしてだろう。


「お話中に申し訳ありません。イェソンと申します。憧れの先生にお会いできて光栄です」

「イェソン……? あぁ! 君がそうなのか」

「ご存じですか? ありがとうございます!」


機嫌良く話すその作家ににこやかに相槌を打ちながら、彼は相手に見えないところで僕に向けた手をパタパタと上下に振った。


……なんだろう?


……あ。


あっちへ行け、ってこと?




2人に軽く会釈をして、僕はその場を離れた。

しばらくして彼もまたその作家の元を離れた。



その時、一瞬だけ目があった。


彼が、ほんの少しだけ、柔らかく笑った。


……もしかして、助けてくれた?





その日以来、彼の微笑みが胸に焼きついて、離れない。



だから、彼を担当する編集部の先輩が体調を崩して休むと連絡を受けた時、先輩には悪いけどチャンスだと思ったんだ。




2019.12.23 Mon l 君と紡ぐ未来【完】 l コメント (0) トラックバック (0) l top


<JongWoon>



話しているうちに思い出した。

パーティーで、いけすかない作家に絡まれていたあの子だって。



確かに、可愛らしいとは思う。

女の子のような可愛らしさとは違うし、はっきりとした頬骨や顎のラインは、むしろ彼が間違いなく男であることを物語っている。

もしかしたら、そういう趣味の人間にはかえってそれこそが魅力なのかもしれないが、自分には到底わからない感覚だ。





「よく……あるんですか? ああいう事」


ダイニングテーブルにノートパソコンを広げ、USBの中身を確認している彼に話しかけた。


「え……?」

「パーティーで。ファン先生に絡まれてましたよね?」

「あの……」

「思い出しました。あの時の……でしょう?」

「……はい」


恥ずかしそうに俯く様子に、つい可愛いと思ってしまった。

本人にとってはきっと、愉快な話題ではないはずなのに。


「イェソン先生。あの時は、ありがとうございました」

「俺は何も。ファン先生にご挨拶しただけです」

「それでも、助かりました。無碍にもできなくて困ってたんです」



そう言って彼がはにかむように笑った。



……あれ?




「……ねぇ……やっぱりどこかで会ったことあるよね?」

「……え……ですから…その……パーティーで……」

「いや、違う。もっと、別のところで。もっと、前……」

「……え……?」



戸惑いに揺れるその瞳に、見覚えがある。


こんな風に、君に、見つめられたことがある。



「……ごめん……ちょっと、いいかな…?」

「……なんでしょう…」



どうかしてると思う。


でも。




立ち上がって、彼の腕を引く。

バランスを崩して俺の胸に飛び込んできた彼を抱きとめた。





……俺は、こうやって君を抱きしめたことがある。


でも……いつ?


どこで?


……もっと触れたら、思い出す?






「何するんですか?!」



どんっ! っと突き放されて、我に返った。



「……ごめん」

「……助けてくれたのは……このためですか?」

「……え?」

「そうやって、僕の気をひいて、油断させるため……?」






俺の軽率な行動が、とんでもない誤解を招いた。


そう気づいたのは、混乱した頭が落ち着いて、彼が既に部屋からいなくなってしまった、その後だった。








明日は、10000拍手記念FFをアップします。


2019.12.24 Tue l 君と紡ぐ未来【完】 l コメント (0) トラックバック (0) l top

<RyeoWook>



びっくりした。


何? 今の……



突然の彼の行動に、強く拒絶をしてしまった。

彼を突き飛ばして、飛び出してきてしまった。

素敵な人だと思ってたのに。

なんだか裏切られたような感じがして、悲しくなった。


結局彼も、僕をそんな風に見てくる人達と同じなの?


されたこと自体への嫌悪よりも、そのことへの落胆が大きい。




「…………あ」



どうしよう……

荷物、全部置いてきちゃった……


原稿の入ったUSBだけならメール便か何かで送ってもらえばいいけど……

でも、僕個人のパソコンも、スマホや他の作家さんへ渡す資料が入った鞄も全部。




仕方ない。


戻ろう。


仕事は仕事だし。


あれだけ強く拒絶したんだから、また何か言ってくるとかはないだろうし。


むしろ……先生にあんな態度とった僕が無礼を謝まるべきなのかな……



再び彼のマンションへと向かう足取りは重い。

さっきここを通った時は、もっと待ち遠しいような気持ちだったのに。





「あ……」



マンションに近づくと、建物の前で彼がキョロキョロとあたりを見回していた。

僕を探しに降りたのかな……

下まで降りたものの、どっちに行ったかわからなかったんだろう。



「あ!」



駆け寄ろうとした彼に、ビクッと身体が強張る。

そんな僕に気づいたのか、彼の足が止まった。



「……ごめん。ちゃんと、説明するから……だから少し時間をくれないか?」

「説明……?」

「そう……信じてもらえるかどうか、わからないけれど」



その表情があまりにも必死で、とても取り繕おうとしているようには見えなくて。



「家で2人きりになるのが嫌なら、どこか外でもいい。でも……誤解は解いておきたいんだ」

「……わかりました……あの僕、荷物全部置いてきちゃって……」

「え……?……あ……」

「取りに伺ってもいいですか?」

「……もちろん」




ほっとしたように、彼は微笑んだ。



それは、あのパーティーの日に見せたのと同じで。



やっぱりそれは、とても魅力的に僕には映ったんだ。




2019.12.26 Thu l 君と紡ぐ未来【完】 l コメント (0) トラックバック (0) l top

<JongWoon>



その既視感の意味がわかったのは、俺を突き放した彼が叫ぶその表情を見たときだった。



「説明…って、なんですか?」



荷物を取りに来た彼は、場所を移そうかという俺の提案に首を横に振った。


"僕に触れないと約束してくれるのなら"


そう言って。





「これ……見てくれる?」


仕事用のデスクトップを操作して、書きかけのプロットの1つを表示させる。


「でも……これ、僕が見ていいものじゃ……」

「いいから。見てほしい」




それは、俺が小さな頃から何度も見る夢をもとに書いたもので、いつかきちんと書き上げたいとずっと思っている、思い入れの強いプロットだった。



「流浪の剣士……ですか?」

「そう」

「これが……何か?」

「これ、俺なんだ」

「……え?」

「正確には、夢の中の俺。それで、こっちが君」

「……お姫さま、ですけど」

「うん……でも、夢の中で見た人物像と君が、ぴったり重なるんだ」



幼い頃から、その可憐な容貌のせいで大人達の欲望の対象として見れら続けてきたその姫君。

王や兄達に守られてはきたが、それでも警戒心が強く、心を凍らせて過ごしている。



「確かに、僕のこれまでの経験と被るところはあります。でも……」

「人物像が重なると思ったのは、この境遇のせいじゃない。君の、凛とした雰囲気と、今日ここへ来てから見せてくれた、いろんな表情のせいだよ」

「表情?」

「君の笑顔を、見たことがあると思った。戸惑って揺れる瞳も。こんな風に見つめられたことがあると思った。それに……」

「……何ですか?」

「あんな風に悲痛に叫びながら、君に拒絶されたこともある」

「……夢の中で?」

「そう……夢の中で」




突拍子もない話だと、わかってはいる。

でも、俺にはこれが事実だ。




「……信じられると思いますか?」

「……だよね」

「それでどうして、あんなことした説明になるんですか?」

「……抱きしめたこと?」

「そうです」



これを言ったら、きっともっと警戒される。



「……愛してたんだ。その、お姫さまを」

「…………」

「……都合のいい、言い訳に聞こえるよな?」

「……はい」

「……ごめん」




胸の奥の、もっと、もっと奥の方が、キリキリと音を立てているような気がした。


夢の中の話をしているはずなのに、まるで、本当に愛しい人から拒絶されたような、そんな感覚。




そして、気づいた。


夢とか、そんなの関係なく。


俺は今、目の前の君に、惹かれているんだ、ってことに。







今年のお話の更新は、これが最後となります。
皆さま、よいお年をお迎えくださいね( *´ ω ` )

第6話は、1月5日に更新します。


2019.12.27 Fri l 君と紡ぐ未来【完】 l コメント (5) トラックバック (0) l top