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変わらない朝。



6時の目覚まし。

コーヒーメーカーをセット。

トーストにハムエッグ。

ちぎっただけのサラダ。

テレビではニュースと天気予報。

歯を磨き、顔を洗い、髪型を整える。

カバンに必要な物を入れ、7時に家を出る。



毎日同じルーティーン。



それは、


晴れの日も、雨の日も、


暑い日も、寒い日も、


少し風邪気味でも、そうでなくても、





あなたがいても、



いなくても。










一緒に暮らしたのはわずか半年。


俺の人生の中で、一番幸せだった時間。


目が覚めると、あなたが俺を見ていて、


おはよう、って笑う。


俺は恥ずかしくて、布団で顔を隠し、


おはよう、って答える。


それが、1日の始まり。




元々は出かける寸前まで寝ていたい方。

朝ご飯も適当。

だけど、2人で暮らすようになって、

俺の朝は変わった。



あなたと同じルーティーン。


毎日、毎日。


それが幸せだった。







「キュヒョナ、別れてくれないか」


何か思い悩んでいる感じはしてたけど、別れ話なんて露ほども考えなかった。


理由を問う俺に、あなたは言った。


「今度、ニューヨークの支社長になる。どのくらいの期間になるかもわからないし、遠距離は無理だよ」





あなたは行ってしまった。


俺の心を持ったまま。




残ったのは、


あなたと同じルーティーンだけ。









仕事を終え、帰路につく。


途中のコンビニで晩ご飯を調達する。


夜は、卵も焼かなければ、米も炊かない。ラーメンすら作らない。


俺より忙しかったあなたとは、一緒に食べたとしても夜は外食ばかりで、家で食べるなんてなかったから。


大抵あなたは、日付けが変わるか変わらないかくらいに帰ってきた。


あなたを待ってなかなか寝付けず、そういう時に限って遅くなり、明け方までソファーで毛布にくるまっていたことがあった。


あなたは、ごめん、と謝りながら俺を抱きしめた。


俺が待っていたかっただけだから、と抱きしめ返した。


もし帰りが遅くても、必ず12時にはベッドに入って、とあなたは言った。





12時。


テレビを消して、パソコンも消して。


今日も俺はベッドに入る。


夜の時間、唯一のルーティーン。





ベッドに入って、あなたを待つ。



もう帰らない、あなたを待つ。




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2019.05.29 Wed l routine【完】 l コメント (2) トラックバック (0) l top



今朝もまた、同じルーティーン。



ここではないところで、


あなたも同じことをしている。


きっと。




だから俺はやめられない。


あなたが残したルーティーンを。


ずっと、やめられない。









この2年。


あなたがいないこと以外、俺の日常はほとんど変わらない。


仕事柄、テスト期間や入試が近づくと忙しくはなるけれど、担任を持っている先生と比べたら大したことはない。




いっそ、もっと忙しければいいのに。


あなたのことを考える暇もないほど。



疲れきって、12時を待たずに寝入ってしまいたい。


目覚ましに気づかないまま、寝過ごしてしまいたい。




俺の心は、今でもあなたと暮らしている。








家に帰ったら、明日の朝の分のハムがなかった。


買って帰らなきゃいけなかったのに。


別にたまにはハムエッグじゃなくてもいい。


なのにそれだと落ち着かない。


ルーティーンとは違うから。






一度家に帰ってから、また出かけるのは珍しい。


帰ってすぐにカーテンをかければ、外を見ることもまずない。


今から帰る、と時々あなたから連絡があった時だけは、何度も窓の外を確かめたりもしたけれど。





さっき行ったコンビニに、もう一度向かう。


マンションのエントランスを出て、左に曲がる。





ふと、足が止まった。


振り返る。


エントランスから右に行った方向に、一台の車。


エンジンのかかる音。


サイドミラーに小さく見える人影。


俺の願望がそう見せているの?





「ヒョン……?」




車が走り出す。


「待って!」




どうして?


どうして?




サンダルを突っかけた足がもつれる。


俺は盛大に転んだ。



「待って!」



顔はいつのまにか溢れた涙でぐちゃぐちゃで、ハーフパンツの膝はどこかの幼稚園児みたいに擦りむけて血だらけ。


いい大人がこんな往来ですることじゃないと心のどこかで思いながらも、嗚咽が止められない。




「…シウォ……」




声に出して名前を呼ぶのは、




あなたが去ったあの日以来だった。





2019.05.30 Thu l routine【完】 l コメント (0) トラックバック (0) l top



あなたの残したものは、


ルーティーン以外にもう1つあった。


違う。


その"もう1つ"があったから、


ルーティーンも残ったんだ。




"もう1つ"


それは


俺の中の"あなた"









涙でぐちゃぐちゃの顔で、

擦りむけて血だらけの膝で、

子どもみたいに泣いている。


こんなところ、生徒とか親御さんに見られたらまずいのに。


そんなことになったら、きっと明日には学校中の噂だ。


"数学のチョ・ギュヒョン先生が、夜道で大泣きしてた"って。


泣きながら、もう1人の俺はそんなことを考えている。





ほら。


誰か来た。


視界に入ってくる革靴。





「キュヒョナ」




心臓が、ひとつ大きく跳ねた。





「大丈夫か?」



……大丈夫なわけ、ない。


見た目も、心も、ぐちゃぐちゃだ。


顔も上げられない。



「…立てる?」


差し出された手を取っていいのかどうか、わからない。


「キュヒョナ」


屈み込んだあなたが、俺の顔を覗き込む。





ヒョンだ。



本当に、シウォニヒョンだ。





「とりあえず、手当てしないと」


されるがまま、支えられて立ち上がる。


そのまま、無言でマンションに入る。


暗証番号を打ちこむ。


「…変えてないの?」


2人の誕生日の組み合わせ。



部屋に入る。


あなたが、小さく息を飲む。



この部屋は何も変わっていない。


家具も、

カーテンも、

あなたの分のマグカップでさえ、

そのまま。


違うのは、あなたがいないことだけ。




俺、未練がましいでしょ?


何にも、変えられなかった。

何にも、変えたくなかった。


あなたがいないことを、受け入れたくないんだ。


今も。





「…とりあえず、手当てしよう」


ソファに座らされる。


救急箱の在りかも変わらない。


俺の前に跪き、テキパキと動くあなたの手。


「…っ!」


消毒液が、しみる。


歪む顔。


「ごめん、ちょっと我慢して」




……我慢?




「……いつまで…?」


あなたの手が止まる。


「いつまで我慢すればいい?」


「……もう、終わるから」


再び手が動く。


絆創膏を貼って、


おしまい。





あなたが立ち上がる。



その手を、掴んだ。



「…キュヒョナ」


「……いやだ」


「…………」


「…わかるでしょう? 待ってるって」


「……キュヒョナ…」





顔を上げる。



「…父さんが、ごめん…」



その顔が、驚きの表情に変わる。



「っ! …キュヒョ……⁈」



「…ごめん…」





2019.05.31 Fri l routine【完】 l コメント (0) トラックバック (0) l top



立ち居振る舞いの


綺麗な人だと思った。


それが、あなたの第一印象。










俺の家は、祖父と父親が興した事業が成功して、さすがに財閥並みとは言わないけれど、それなりに恵まれて育った。


父は、社長の息子だからといって、俺に後を継ぐことを強制することはなかった。


内心では、俺に後を継ぎたいと思ってほしいようだけど、この会社は自分自身のやりたいことを頑張った結果だからと、俺にも自分のやりたいことを優先させてくれた。


俺は、希望していた教職に就いた。


それでも、一応経営者の家族として顔を出さなくてはいけない場面は年に何度かあった。


それを卒なくこなすのは、俺にできる最低限の親孝行だった。





チェ・シウォンと出会ったのも、そんな場面の1つだった。





創立何周年だかの記念パーティー。


すでにその頃の父は、経営には全く興味のない息子よりも、優秀な人材を将来の経営者候補として育てるつもりでいるようだった。


彼も、その中の1人だった。


第1候補といってもいいだろうと思う。


もともとは大学時代に友人と共に起業し、小さいながらもベンチャー企業の取締役という肩書き。

いわゆるヘッドハンティングで、父の会社に入ったばかりだった。


父に紹介され握手と挨拶を交わし、その日は終わった。







再会は数ヶ月後。


職場の忘年会で訪れた店でのことだった。


父の会社の人達が同じ店にいるのを見つけた時、まずいなぁ、と思った。

というのも、俺がいることに気づいたら、みんな次々と挨拶をしに来るだろうことが予想されたからだ。

前にも一度そんなことがあったが、その後の居心地の悪さったらなかった。

なんとかバレないよう背を向けていたら、遅れて店に入ってきた彼と目が合った。

俺に声をかけようとした彼に、咄嗟に人差し指を口に当て声を出さずに"しーっ!"と言った。


多分、必死な顔だったと思う。


よく、あの時のことを笑っていたから。


彼は大きな目を更に大きく見開いたが、それでも小さく頷いた。



なんとかバレずにやり過ごし、店を出た。

2次会は断って、家に帰ろうと駅に向かっていたら、ポンポンと肩を叩かれた。



振り向くと、そこに彼がいた。



キョロキョロと周りを確認する俺に、

「みんなもういないから大丈夫ですよ」

と笑った。


あの一瞬で、俺の危惧したことをわかってくれたことに驚いた。




「あの、ありがとうございました」

「いえ。キュヒョンさん、もう帰られるんですか?」

「はい。苦手なんです。飲み会って。」

「そうなんですか? 先日のパーティーの時は、結構飲まれてましたよね?」

「弱くはないんですけど、量を飲めればなんでもいいタイプじゃないもので」

「あ、もしかしてワインとかの方がお好きですか?」

「はい。実は」


ほとんど初めて話すのに、親しみやすくて、でも決して馴れ馴れしい失礼な感じはなかった。

やっぱりビジネスで成功する人はこういう人なんだなぁと思った。



「あの、もしよければ飲み直しませんか? いいワインバーがあるんです」



彼の誘いに、俺は乗った。


その日の俺がワインに釣られたのか、彼自身に釣られたのかはよくわからない。


でも、その後もよく彼と会うようになったのは、ワインだけのせいではなかった。




彼といるのが、楽しいと思った。



彼と会うのが、嬉しいと思った。






彼のことが、好きだと思った。





2019.06.02 Sun l routine【完】 l コメント (0) トラックバック (0) l top


気づいたときには、


俺はもう恋に落ちていた。


当たり前のように、


あなたが心に住み始めた。


それからずっと。


俺の心は、あなたを住まわせたまま。









2人で会うようになって半年を過ぎる頃、

彼が新しい部屋を探しているという話になった。

父の会社に入る前から住んでいるマンションは少し遠くて不便で、そこがちょうど契約更新の時期なのだと言った。




「一緒に住みませんか?」



今考えても、よくあんなこと言ったと思う。


「……ん?」


「あ…いえ…あの…」


口ごもる俺。


口をあんぐりと開けた彼。


「…それは…どういう…」


「え……その…」


「……ただのルームシェアなら、無理だよ」


「え……?」


彼の瞳が、揺れていた。


「…手を出さない、自信がない…」


「…それは…どういう…」


自分が何を言ったのか、今気づいたという表情で、彼が大きな目を更に大きくした。


戸惑いが、瞳の中に見えた。


やがてゆっくり目を伏せ、次に俺を見た時には、その瞳からもう戸惑いは消えていた。



代わりにそこにあるもの。



それに、焼かれる。




「同棲なら、喜んでする」









一緒に暮らし始めた。


恋人として。




表向き、俺は実家を出て祖父の所有するマンションを借りて、友人とルームシェアするということにした。


そしてその友人が、彼だということにして。


一緒に住むのが彼だというのを隠したところで、父の会社に勤めているのだからどうせバレるのは時間の問題。

それならば、パーティーの後偶然会う機会があって友人になったと話した方がよっぽどいいと判断した。


実際、引っ越しの話が出るまでは友人だったのだし。




彼との暮らしは、とても穏やかだった。


教職の俺よりも忙しい彼とまともに顔を合わせるのは朝の時間と休日くらいで、その休日さえ潰れてしまうこともよくあった。


元々の性格なのか、どんなに夜が遅くなっても、ルーティーンのように決まった時間に目覚め決まった手順で朝の用意を済ませていく彼を、最初は不思議に思った。


俺自身は、遅くまでゲームをして、朝はギリギリまで布団にいたいタイプだったから。


そのうち、一緒に目覚めるようになった。


一緒に、朝食を用意し食べるようになった。


彼だけのものだったルーティーンが、彼と俺、2人のものになった。





2019.06.03 Mon l routine【完】 l コメント (0) トラックバック (0) l top