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「よっ」


そうジョンスに一声かけて、ヒチョルは店のカウンターに座った。

繁華街の裏通りへと回る路地の角にあるバー『The Crown』は、休日の深夜遅い時間ともなるとわずか数人の客しか残っていない。


「いつものでいい?」

「焼酎は?」

「ないのわかってて聞かないの」


ジョンスは結局いつもの輸入物のビール瓶を開け、くし切りにしたライムをそこに刺しこんでヒチョルの前に置いた。

このバーだけでなく界隈で数店舗のオーナーをしているヒチョルは、変わり者ではあるが案外食べ物や飲み物で冒険するタチではないらしい。


「あれ。あいつは?」

「あぁ……ヒョクチェ? もう帰ったよ。シフト早番だけにしたんだ」

「なんで?」

「身内が入院してて。毎朝通ってるんだって」


ここのバーテンとして雇ってもう1年近くなるのに、ジョンスがヒョクチェの事情をきちんと聞いたのはごく最近のことだった。

もっと早く言ってくれたらよかったのに。


「あぁ……それで……」

「何?」

「ドンヘ。最近付き合い悪いんだ、あいつ」

「へぇ……」


以前は仕事の時だけでなく、仕事終わりにもよくここに寄っていたドンヘは、最近はあまり姿を見せない。


『家のこと全部するから一緒に暮らそう、って言ってくれて。甘えることにしたんです』


惚気のような言葉だったけれど、それを言ったヒョクチェの表情には幸せ以外のものが潜んでいるようにジョンスには感じられた。

何かあるのかと心配にはなったが、立ち入るべきではないような気がして聞けずにいる。


「まぁ……大変だよな。毎日病院通いなんて。周りもさ」

「そうだね」

「ジョンウンに言ってあるのかね? あいつ」

「さぁ……」



ヒチョルはイェソンの従兄ではあるが、普段はその本名を口にすることはない。

だが、ジョンスの前では別だった。

ジョンスは、ヒチョルが素の姿を見せられる数少ない人間の1人だ。

金鼠組の孫であるというだけで昔から遠巻きに見られることが多かったヒチョルに、そんなことは関係なく接してきた唯一のクラスメイトだった。

だから、父親の失業でジョンスの家が窮地に陥った時、ヒチョルは手を差し伸べることを迷わなかった。

経営し始めたばかりのこのバーのマネージャーにジョンスを据えたのだ。



「まぁ……言ったところであいつの人遣いの荒さは変わらないんだろうけど」

「ホントだよ……ねぇ、今度イェソンに言っておいて? この店、もうそんなにたくさん人いらないって」



ボスであるイェソンが実は誰よりも真っ直ぐなのが、今の金鼠組だ。

道を踏み外しかけている人間を放っておけないのは相変わらずで、そうやって拾った者の世話をドンヘに丸投げするのも相変わらず。
(そしてそういう者たちの受け皿の一つがこのバーだ)

確かに若干怒りの沸点は低めかもしれないが、実際の性格は『狂犬』と怖れるようなものではない。


「そうだよなぁ……やっぱりもう一店舗作るかー?」

「バー?」

「いや……まだ何も考えてないけど。どっかのかわい子ちゃんのせいであいつ、さらに性格丸くなってくからさ」

「あぁ……」


時々、そのかわい子ちゃんと一緒のイェソンを、ジョンスも見かけることがあった。

大抵は出勤途中の夕方で、2人が子犬を連れていることもある。

そんな時のイェソンはいつもと違いラフな格好で、どこにでもいるごく普通の青年にしか見えない。


「ま、いいんじゃないの? だからって組放り出すようなやつじゃないじゃん」

「まぁ、な」





─ 本当はいつか、違う世界で生きたいんじゃないかな、あいつ ─


そう聞いたのはいつだっただろうか。

イェソンの親友のその言葉に、先入観を持った自分をジョンスは恥じた。

ヒチョルの従弟とはいえ、狂犬というあだ名には怖いイメージを持っていた。

人柄を知った後でも、まだ恐ろしい部分を目にしていないだけではないか、とも。

だが目を細め、朗らかに笑ったその親友の彼の言葉に、先入観も何もなくヒチョルに接した昔の自分を思い出したのだ。



大事なのは環境ではない。

その人自身である、ということを。




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2020.02.23 Sun l Time_Slip【完】 l コメント (4) トラックバック (0) l top

コメント

マネージャーにむ♡
ちびくま、『The Crown』到着 チェックイン☑ ← 出席チェックでは?
(マネージャ目当て。)

「すみませ~ん、いつものでお願いしまっす♪」
(限りなくアルコール無し)

こうやってジョンスはイェソンを取り巻く人達を見てるんだね。
ごめんね、金鼠組の受け皿で。
きっと毛並みの変わったのがこの店に何人か回されてる筈。

ジョンスの目を通して、関わりのある人間がみんな幸せに見えると嬉しいな。


ごふさん、イェソンの「親友」出演させてくれてありがとうございます!!
お土産持って『The Crown』に来るかな?
2020.02.23 Sun l ちびくま. URL l 編集
美人マネ♡←部活っぽいw
> ちびくま、『The Crown』到着 チェックイン☑ ← 出席チェックでは?

早速ありがとうございます( *´꒳`* )

> (マネージャ目当て。)

↑やっぱり(o´艸`)

> 「すみませ~ん、いつものでお願いしまっす♪」
> (限りなくアルコール無し)

ほぼジンジャーエールのモスコミュール
ほぼコーラのディーゼル
ほぼオレンジジュースのファジーネーブル
さぁ、どれ?!←どんちゃん用カクテル3種類♬

> こうやってジョンスはイェソンを取り巻く人達を見てるんだね。
> ごめんね、金鼠組の受け皿で。
> きっと毛並みの変わったのがこの店に何人か回されてる筈。

最初は皿洗いから。ちょっと更生が見られるようになるとウェイターになったり。見た目のいい子はヒチョルのホストクラブに引き抜かれたりもするかも。

> ジョンスの目を通して、関わりのある人間がみんな幸せに見えると嬉しいな。

そうですね。弟たちの幸せは、ヒョンの幸せだと思います。

> ごふさん、イェソンの「親友」出演させてくれてありがとうございます!!
> お土産持って『The Crown』に来るかな?

そこは専門家であるちびくまさんにおまかせ♡
私が触れるのはここまでです♬
でもきっと……『ひよこ』とか持ってくるんじゃないですか?(๑˃̵ᴗ˂̵)
2020.02.23 Sun l ごふ. URL l 編集
ジョンスさん、ヒョクちゃんの身の上話もっと早く言ってくれればいいのにって…いっぱいへこんでそうですね(´・×・`)
うねちゃん達、力になってくれるお兄さん達に甘えて少しでも楽に生きてくれたらなぁ(;_;)

ジョンウンさんは可愛い子ちゃんとお散歩デートですか?しかもお着替えして?うまくいってそうで安心しました♪
親友はたとえ出てこなくても今も仲良しですよね。二人の絆は強いですからね
(。ᵕᴗᵕ。)
2020.02.24 Mon l かずえ. URL l 編集
かずえさん〜
いらっしゃいませ~

> ジョンスさん、ヒョクちゃんの身の上話もっと早く言ってくれればいいのにって…いっぱいへこんでそうですね(´・×・`)
> うねちゃん達、力になってくれるお兄さん達に甘えて少しでも楽に生きてくれたらなぁ(;_;)

そうですね。知らないと助けようにも出来ないし……
きっと力になってくれるヒョン達ですからね。

> ジョンウンさんは可愛い子ちゃんとお散歩デートですか?しかもお着替えして?うまくいってそうで安心しました♪

その他のお出かけとかはまだなかなかしなさそうですが、コミンのお散歩くらいならしそうかなぁ、と。
いつもの『狂犬スタイル』だと、一緒にいるかわい子ちゃんが目をつけられたら困りますからね。お着替え必須です。

> 親友はたとえ出てこなくても今も仲良しですよね。二人の絆は強いですからね
> (。ᵕᴗᵕ。)

ですよね( *´꒳`* )
2020.02.24 Mon l ごふ. URL l 編集

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