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<RyeoWook>



ドクドクとなる心臓をなんとか宥めて初めてのステージに上がった。

思っていたよりもずっとたくさん人が集まっていて、ざわざわと広場は賑わっている。

なのに……どうして一瞬でわかっちゃうんだろう。

気づいた時にはもう、僕はたくさんの人の中にヒョンを見つけていた。




ヒョンが、来てくれた。

僕を、見てる。



頑張れ



そう紡いだ唇。



うん……

ヒョンが聴いてくれるんだもん。

こんな心強いこと、他にないよ。











「リョウク」


声に振り返ると、用意された椅子に座り、スタンバイを整えたドンヘ先輩が僕を見あげていた。

僕も隣の椅子に腰を下ろしひとつ頷くと、先輩はギターを奏で始め、僕たちのステージは幕を開けた。





1曲目は、先輩がメインの『Stand by me』

よく知られた歌でお客さんの興味をひくのが先輩の定番らしい。

先輩がひとりでバスキングをする時にもよく来てくれてる子達が一緒に歌ってくれる。

そのおかげで、会場の雰囲気は一気に暖まった。





いよいよ2曲目は僕が選んだ歌。

先輩のギターの音にあわせて、息を吸い込んだ。






あなたが必要で

あなたに会いたくて

どうしたらいいんだろう



空の中に飛び込めるのなら

時空を超えられるのかな?

1000マイルだって歩いていけるよ

今夜もし あなたに会えるなら

Vanessa Carlton 『A Thousand Miles』より意訳









どうして、あなたなんだろう。

世界にはもっと、もっと、たくさんの人がいるのに。



神様のいたずら?

だとしたら、随分と意地悪なことをするよね。


前世の償い?

だとしたら、僕の前世はきっと極悪人だったに違いない。




でも、それでもいい。


好き。


あなたが好き。


生まれた時からそばにいてくれた人。


そこにいるのが当たり前だった人。


なのに今は、そばにいない人。


会いたくて、会いたくて。


あなたがいないだけで、僕の毎日は色を失くすんだ。







ヒョン?


この歌を、ヒョンに贈るね?


僕の、精いっぱいの『会いたい』を。


伝わらなくてもいい。


気づいてくれなくていい。


ただ、ここで、ヒョンが聴いてくれている。


それだけでいい。







それでもあなたが必要で

それでもあなたに会いたくて

どうしたらいいんだろう





2020.03.26 Thu l Change the World l コメント (0) トラックバック (0) l top

<JongWoon>



昨夜、夕飯を終えた頃になって、やっとリョウクは帰ってきた。

オンマは小言を言っていたけれど、ステージの打ち合わせに行かなくてはいけなかったと言うのだから仕方がない。


「ドンヘと、歌うんだって?」


そう聞いた俺に、リョウクは俯いたまま小さく頷いた。



「……来る?」

「友達で集まるから……多分」

「そっか……」




続かない会話。

合わない視線。



以前は自分が意図してそうしていたくせに、それが悲しく思えるなんて自分勝手な話だ。

ずっとこんな気持ちだったのかな、リョウクは。

こんな風に接するのがもう、リョウクにとっても普通になってしまったのかもしれない。







昼過ぎから高校の同級生たちと待ち合わせて、夏祭りに繰り出した。

久しぶりに会ったせいもあるけれど、常に受験のことが頭にあったあの頃よりも今の方が気楽に祭りを楽しむことが出来るのか、みんな一様にテンションが高い。

そんな奴らを横目に、俺はずっとソワソワとしていた。




出店の並ぶ通りを抜けた先にある広場には特設のステージが組まれ、朝からいろんな催し物が開かれている。

抽選会やのど自慢、マジックショーまであった。

その合間にいくつか地元のミュージシャンのステージが用意されていて、リョウク達のステージもそのひとつ、今日の夕方の時間帯になっていた。





友人達と連れ立って向かった広場にはもうオンマもキュヒョンもいて、リョウク達の登場を今か今かと待っていた。


「こっちが緊張するわ。あの子、大丈夫かしら」

「うん……」


ソワソワと落ち着かないのはオンマも同じみたいだ。

大きく息を吐くと、こっちを向いたオンマと目があった。



そうだよな……

家族がステージに上がるんだから、こっちまで緊張して当たり前だ。






やがて沸き起こった拍手に誘われるように、2人はステージに上がってきた。


緊張した表情で客席を見渡したリョウクと、目があった。






頑張れ



口元で呟くと、リョウクが目を見開いた。


もしかして今……俺の言葉、届いた?





胸が、熱くなる。


たったこれだけのことが、こんなにも嬉しいなんて。



2020.03.24 Tue l Change the World l コメント (0) トラックバック (0) l top

<RyeoWook>



「明日はよろしくお願いします」


そう2人で頭を下げてスタジオを後にする。

夏祭りのステージに僕たちを誘ってくれたこのスタジオのオーナーと段取りなどを打ち合わせて、いよいよ明日の本番を待つだけだ。


「緊張する?」

「そりゃあ……はい」

「だよね。俺も」

「でも、先輩が一緒だから、心強いです」


僕の言葉に、ドンヘ先輩は照れたように笑った。







ヒョンと、まともに顔を合わせてもいない。

せっかく帰ってきてくれたのに。


『リョウガ』


その言葉は、呪文みたいに僕の思考を奪った。

心の中の全部がヒョンでいっぱいになって、それが怖くて、とてもじゃないけどヒョンのいるリビングにはいられなかった。




僕は、これからどうなってしまうんだろう。


この気持ちは、いつまで続くの?


ずっと……一生……?




想っているだけならいいじゃないかと、そう開き直っていたはずなのに。

終わりの見えない想いに押し潰されそうな心をどうしたらいいのかわからなくて、いっそヒョンのいる家から逃げ出したかった。



そんな時、打ち合わせに来られるかと、先輩から連絡が来たんだ。









「ねぇ……リョウクはさ、どうしてこれを選んだの?」



僕が選んだその歌を、先輩はすごく素敵にアレンジしてくれた。

ピアノの旋律がきれいな原曲だけれど、ギター1本でアレンジされたそれは、シンプルで力強いストロークが印象的なものになった。



「……これをピアノ無しでやったら面白いかな、と思って」

「そっか……」

「……どうか、しました?」

「いや……その、歌詞がさ。気になって」



……え……



「誰か、思い描く人がいるのかな……って」

「あ……」

「……片想い……とか?」




……片想いだと、そう言えるものならよかった。

そんなキレイな恋なら、どんなによかっただろう。




「あ……ごめん……余計なお世話だよね」

「いえ……」







先輩……

僕ね? 好きな人がいるんです。



すごく、すごく好きで。

大好きで。

もう、どうしようもない人が、いるんです。



でもね?

その人は、好きになっちゃいけない人なんです。

多分、この世で1番、好きになっちゃいけない人。



なのに僕は、好きになっちゃったんです。

その人を。




僕の、ヒョンを。



2020.03.22 Sun l Change the World l コメント (0) トラックバック (0) l top

<JongWoon>



「俺、S大狙ってて。だからいろいろ聞きたくて」


久しぶりに会ったキュヒョンは、挨拶もそこそこにそう言った。


「いろいろ、って……でもお前法学じゃないだろ?」

「うん。情報工学」

「じゃあ俺、役には立てないと思うけど?」

「何も勉強教えてとかじゃないって。いわゆるキャンパスライフ、ってやつ? ほら、モチベーションには大事でしょ?」

「あぁ……まぁ、な?」




相変わらずだな。

遠慮とか、そういう言葉を知らないんじゃないかと思うくらい、知らぬ間に懐に入り込んでくる。

でも不思議とそれが可愛く思えるところが、キュヒョンの得なところかもしれない。


小さい頃から成績がよくて、リョウクと一緒に宿題をしてもいつもひと足先にやり終えていた。

難関大学を志望校にしても当然だと思う。




「……って言っても俺、講義の他はほとんど大学にいないけど?」

「サークルは?」

「入ってない」

「彼女は?」

「いない」

「えー……じゃあジョンウニヒョン、毎日何やってんの?」

「講義と…………バイト?」




返答に深いため息をついたキュヒョンを横目に俺は、部屋に入ったままのリョウクが気になって仕方がなかった。

せっかく帰ってきて、キュヒョンも来ているのに。



仲直りはしたはずだけど、気まずさはそう簡単にはなくならないみたいだ。


でも、きっとそれでいいのかも。


この距離感を保っておかないと。









「オンマ。僕、ちょっと出てくるね?」


リビングでキュヒョンと話をしてしばらく、やっと顔を見せたリョウクが言った。


「出る、ってリョウク……もうすぐ夕飯なのに」

「ごめん……明日のことでちょっと」



するとリョウクは、焦るようにこっちを見ることもなく出て行ってしまった。



「オンマ……明日のこと、って……?」

「あぁ……なんかあの子、部活で夏祭りに出るみたいよ?」

「部活?」

「ヒョン……聞いてないの? リョウク、ドンヘ先輩と歌ってるんだよ?」

「……え?」



……ドンヘと?



「入学早々に先輩にスカウトされて。明日、お祭りのステージに上がるって」

「……へぇ……」






そんなの、初耳だ。

リョウクからも、ドンヘからも、何も聞いてなかった。



どうして……?

……いや、特に意味は無くて、単に言いそびれているとかなんだろうとは思うけど……




でも、じゃあこの胸騒ぎは……何だ?




「ヒョンも見に行くでしょ?」


どんなステージだろうと、キュヒョンやオンマはワクワクと話をしているのに。



「うん……」

「……ヒョン……もしかして聞いただけで緊張してる?」

「そう……なのかな?」

「過保護だねぇ……」





そう……


ステージだなんて、大丈夫か心配なだけだ。


かわいい弟が舞台に上がるんだ。


心配して、こっちまで緊張したって、それが当たり前なんだから。




2020.03.21 Sat l Change the World l コメント (0) トラックバック (0) l top

<RyeoWook>



今日が来るのが、怖かった。


この気持ちを自覚してから、ヒョンと顔を合わせるのは初めてだから。


会いたくて会いたくてたまらないのに、会っちゃいけないような気がしていたから。





朝からずっとソワソワしているのがオンマにはバレてしまったみたいで、落ち着かないくらいならと買い物を頼まれた。


「本当、あなたはいつまでもお兄ちゃん子ね」


うん……そう……

僕、お兄ちゃん子なんだ。

お兄ちゃん子が過ぎて、どうしようもないんだよ、オンマ……







玄関を開けて見つけた黒いスニーカーに、ドクンと心臓が跳ね上がる。

頼まれたものを買いに出ているうちに、ヒョンはもう帰ってきていたみたいだ。

家の中から聞こえた笑い声にドクドクとなる胸を押さえて、リビングに続くドアの前でひとつ大きく息を吐いた。




「ただいま……」


そっとドアを開ける。

ダイニングのイスで振り返ったヒョンと、目があった。



「リョウガ」



ヒョン……



「ただいま。リョウガ」



ごめん……



「リョウガ?」



……ごめんね、ヒョン……



「うん……おかえりなさい……」



僕………やっぱり、ヒョンが好き……



好きだよ……





「……オンマ、これ置いとくね」

「はーい。あなたもコーヒーいる?」

「ううん……今いい……」





なんとか笑顔を貼りつけて、潤みそうになる目を誤魔化しながら部屋に逃げ込んだ。

せっかく帰ってきたんだから、ソウルでのこととか、大学のこととか、いろいろ話を聞くところなんだろうけど、そんなの今の僕には無理そうだと思った。




どこかでまだ、この気持ちを勘違いだと思いたかったのに。

ヒョンに久しぶりに会って、僕の胸は痛いほど高鳴っている。


誰か……助けて……







そう思った時、ジーンズのポケットのスマホが震えた。



ジョンウニヒョン、帰ってきた?



……キュヒョン?



帰ってきたけど?


行っていい?


いいけど、なんで?


聞きたいことあるから。







20分程でキュヒョンはやってきた。

ヒョンに会うなり、久しぶり、と嬉しそうにハグをして、ヒョンも嬉しそうにそれを受け入れていた。




いいな。

僕も。




そう思うのに、僕の足は動かなかった。


僕のハグは、ヒョンを汚してしまうような気がして。




2020.03.19 Thu l Change the World l コメント (0) トラックバック (0) l top